刺青/谷崎潤一郎のあらすじ・ネタバレ・感想

サディストといふ狂人

登場人物

清吉:元浮世絵師。現在は若手人気刺青師(ほりものし)。 娘:ある日清吉のもとへ使いとしてやってきた少女。

あらすじ

平和の続く江戸では、美しいものが強く、醜いものは弱者であった。その当時、より美しい刺青を入れることが人々のステータスとなっていた。 刺青師の中でも、その描く絵の妖艶さに定評のある人気刺青師・清吉は、人々の苦痛で歪む表情が大好きな生粋のサディストであった。そんな彼は、いつか自分の思い描く美しい体を持つ女に、自らの手で刺青を施すことを夢見ていた。

内容・ネタバレ

平和な時代が続く江戸では、見た目の美しい者が強者であり、醜い者は弱者出会った。その当時、人々はより美しい刺青を入れることがステータスであり、刺青を刺す痛みに耐え、自らの体に美しい絵柄を入れた。 当時、特に名を馳せた刺青師の中に清吉と言う男がいた。彼は元浮世絵師で、「奇警な構図と妖艶な線」を描く優秀な刺青師であった。一方で清吉は変わった癖を持っていて、刺青を入れる痛みに悶える、あるいは耐える人たちの苦痛に歪む表情を見るのが大好きであった。 そんな清吉には「いつか自分の思い描く美しい女の肌に自分の手で刺青を施したい」と言う野望を抱いていた。 ある日清吉が道を歩いていると、駕籠の中から外へ投げ出されたいっとう美しい足が見えた。清吉は、あの美しい足を持つ女性こそ、自分が求めた女に違いないと思いその駕籠を追いかけるもしばらくして見えなくなってしまった。 それから5年たったある春の日、清吉のもとへ見知らぬ少女が訪ねてきた。その娘こそ、5年前に見たあの美しい足の持ち主であった。 清吉はその娘に、男たちをたぶらかしてあしらう悪女の絵を見せ、「お前はこの絵の女になれる素質を持っている」と諭した。自らの隠している性分を言い当てられた娘は、その絵から目を背けて拒絶した。 清吉は薬でその娘を眠らせると、眠っている間に、その娘の背中に大きなクモの刺青を入れた。 目が覚めた時には、その娘は自らの性分を恐れることもなくなり、強くはっきりとした物言いをするようになった。 娘の背中には、清吉によって施されたクモが美しくきらめき輝いていた。

感想

突然ですが、私は中学生の頃、刺青にものすごく憧れていました。 肩のところにBLE○CHの三番隊の模様(漢数字の3と、金盞花)を入れたくて、早く大人になりたいと夢見ていました。 ちょうどその頃ですね。私が自分の携帯を持たされたのは。それで、「まだ早いけど、刺青の予習をしよう!」と思い刺青について調べました。 そこで見たのは、十数本の針がくっついた機械(?)のようなもので肌をぶっ刺す画像でした。もう衝撃的すぎて、綺麗な竜や鯉の模様なんて頭に入りません…。 しかも後になって知ったのですが、刺青があると、温泉やプールに行けないんですね。。。(理由は意味不明すぎるけど) 温泉大好きな私にとって、温泉に行けなくなることはは死活問題です。と言うわけでやむなく刺青は断念。(尤もその2年後にはBLEA○Hにも飽きてしまっていましたが…)

長くなりましたが、何を言いたかったのかと言うと、刺青はマジで、めちゃくちゃ痛いらしいです。 わかりやすく説明すると、刺青は表皮の下に針で刺して墨を入れるわけなので、そりゃ痛いに決まっています…。 他の人が刺青を施されている画像でさえ「痛〜〜〜っ!!!」となってしまう私からすれば、「刺青」の清吉は本物の人でなしです。

清吉のサディズム

この小説の主人公にして、生粋のサディストである清吉。 彼の性癖的には刺青師はまさに天職です。浮世絵師だった頃はいったいこの性癖をどう解消していたんだろう…考えるだけでゾッとします。 しかしこの男は、サディストの域を超えてまさに狂人です。 「屈強な男の顔が苦痛で歪む様に何とも言えぬ喜びを覚える」的な描写でお察しのキモさが、とうとうこいつ犯罪に手を染めちゃったよ、って感じです。自分好みの女を見つけて軟禁して(後に別の使いがやってきて娘の行方を尋ねますが、ずいぶん前に帰ったよ、なんて平然と嘘をつきます、こわ)勝手に刺青を入れるなんて…不思議性癖すぎて怖い。 しかもその女の背中に施したのはでっかいクモ。話しの流れ的には「女郎蜘蛛」でしょうか…いや泣くわ。目が覚めて背中痛くて、見たらでっかいクモの刺青でしょ?きっつぅ…

そうして、プチ軟禁の果てに、清吉は自分の思い描く「女王様」を自らの手で生み出しました。 思うに、清吉のサディズムは少し入り組んでいますね。 勉強不足ゆえ、彼のこの性癖が何と言うジャンルに類するのかは不明です。今度また異常性癖については何かしらの本を読んで勉強しておきます…。 乏しい知識で推測するに、清吉はより強いもの/猛々しいものが弱っている状況にただならぬ興奮を覚えるタイプなのではないかと思います。

実際、男性に刺青を施す場合、その人が痛みで苦しむ顔に喜びを覚え、我慢している男には「これからもっと痛いですよ…」と変な脅しまがいの ことをしている、と言う描写があります。 一方で、娘に刺青を施した際には、その娘が「痛がって弱っているところを見られたくないわ」と言うと、あっさり引きます。

男性、特に強い人の弱った表情がイイんでしょうか…わからん…。

たくさんの男たちをたぶらかし弄ぶ"女王様"像が彼の中にあり、その権化があの娘だったのでしょう。

娘のサディズム

この娘の名前は本編中では明らかになっていません。そのため、娘と呼ぶことにします。 この娘はある意味、清吉の狂気に巻き込まれた(ある意味)被害者です。 初め、清吉に「君はSの素質がある!」と唆された際には「確かにそう言う性分ではあるが、ほっといて欲しい。」と制止します。エスっぽいところはあるけど、女王様願望はない、と。

しかしその後、背中に施されたクモが暴き出すかのように、娘はその本性を明らかにしていきます。

目が覚めて湯に浸かる際、刺青の痛みに苦しむ姿を見られたくないから、と清吉を室外に追い出してしまいます。言い方も、強さを感じさせます。

こうして、娘はすっかり清吉の思い描く女王様になってしまいました。最後には、「お前も私の肥やしだ」と清吉に言い放つなど、、、清吉をしのぐSっ気を発揮。 きっとこれから、この娘は本能のままに男を虜にして弄ぶんだろうと。そしてその様を見て、清吉は興奮するんだろうと。 何とも不思議な関係です。

まとめ

谷崎潤一郎の「刺青」では、サディストについて描かれています。 谷崎の作品にはマゾヒストに焦点を当てた物語が多いぶん、この物語は少し異色かもしれません。

「刺青」は痴人の愛」・「卍」に並ぶ有名作品です。比較的短くて文体も読みやすいので、谷崎初心者さんにおすすめです! あらすじを読んで少しでも興味を持った方はぜひ読んでみてください。

他の特殊性癖に興味がある方は以下の記事もぜひ読んでください。新しい扉を開けてしまっても自己責任でお願いします。 (谷崎特殊性癖小説のレビューのリンク予定地)