桐島、部活やめるってよ/朝井リョウのあらすじ・ネタバレ・感想

僕たちが欲しいのは、僕たちが持っていないもの。

登場人物

菊池宏樹:野球部の幽霊部員。スポーツ万能で容姿も整っており、可愛い彼女を持つ。いわゆる「上」の人間。沙奈の彼氏。

小泉風助:桐島と同じバレーボール部のリベロ。キャプテンである桐島がいるうちは常に補欠だったが、桐島の退部によりスタメンを勝ち取る。

孝介:バレー部の副キャプテン。実果の彼氏。

沢島亜矢:ブラスバンド部の部長。同じクラスの竜汰に密かに思いを寄せる。

前田涼也:映画部に所属する。いわゆる「下」の人間。

武文:前田と同じく映画部に所属する。同じく「下」の人間。

宮部実果:ソフトボール部に所属する。四番を夢見て練習に励む。孝介の彼女。

実果の母:実果の父の再婚によって出来た義母。父と、実の娘であるカオリの死後、実果をカオリと勘違いしている。

沙奈:いわゆる「上」の人間。宏樹の彼女。

東原かすみ:バドミントン部に所属する。映画好き。前田と同じ中学だった。竜汰の彼女。

あらすじ

ある日突然、バレー部のキャプテン・桐島が部活をやめた。

桐島が部活を辞めるという事件によって起こった小さな波紋は、部活を超えてたくさんの人たちに影響を及ぼしていく。

バレー部員、ブラスバンド部、ソフトボール部、映画部、野球部。それぞれの視点でそれぞれ物語が綴られる。

内容・ネタバレ

菊池宏樹

同じクラスの竜汰と自転車で二人乗りして帰る道中、バレー部を辞めるらしい桐島について話していた。

「十七歳の俺たちは思ったことをそのまま言葉にする。」

きっと、桐島が部活を辞めることになっているのも、思ったことをつい口に出して、それが誰かの耳に入って広まっただけだろう。そう宏樹は考えていた。

小泉風助

バレー部のキャプテン桐島が部活を辞めたことで、桐島と同じポジションの風助が次の試合でスタメン入りすることが決まった。

風助は、スタメンが嬉しい反面、桐島が辞めてしまったことが気がかりで喜べずにいた。

副キャプテンの孝介は「次の試合はおれがキャプテンかー!」など気楽に言っていたが、風助はどうしても、素直に喜べなかった。

風助は、桐島が辞めた理由になんとなく気がついていた。

特別何かあったわけではなく、ただ、キャプテンとして厳しい言葉を部員にぶつける桐島に部員達が距離を置き始めたのだった

桐島がいない初めての試合。風助は思ったように動けないでいた。そんな時、桐島がいつもやっていたことをまねてみる。

タイムアウトが終わった。次の一本、風助はボールに集中した。

 

沢島亜矢

ブラスバンド部の部長である亜矢は、古びたバスケットゴールで遊ぶ男子たちの中の1人に恋していた。同じクラスの竜汰だった。

ある日、いつも練習をする場所から見えるはずの男子の集団はいなかった。そのせいで練習に身が入らない亜矢。そんな亜矢を同期の詩織は気にかけていた。

翌日、同じクラスのいつメン・志乃と他愛ない話をしているところに、竜汰がちゃちゃを入れてきた。数言交わして竜汰が去っていった後、志乃は「竜汰いいよね。」と口にした。亜矢は咄嗟に「応援するよ。」と口をついてしまった。

モヤモヤした気持ちを抱えたまま部活に向かう。コンクールまであと4日。「もっと練習したい!」と思う部員たちは部活の後、カラオケに行って練習をしようと盛り上がった。しかし、すぐに見つかり、全員追い出されてしまう。

翌日、亜矢はその話を志乃にしていた。すると志乃は突然「竜汰彼女いるんだって」となんとなしに亜矢に告げる。自分の恋心を隠していた亜矢はなんとも反応することができなかった。

その日、部室に一番乗りで行った亜矢は竜汰について考えていた。

いつから目で追うようになったんだっけ。

いつから本気で好きになったんだろう。

「彼女がいるなら、大声で友達とその話をしていて欲しかった。」なんて考えたりもした。

コンクールまで後3日。亜矢は部室を真っ暗にして、バスケットゴールを見てしまわないようにして、

"泣くな、私。"

と自分を鼓舞した。

前田涼也

映画部の前田は、クラスでも地味なほうで、運動もできなければ見た目もどこか垢抜けない。休み時間はいつも同じ映画部の武文と映画について熱く語り合っていた。

前田はいわゆる「下」の人間だと自覚していた。運動部のキラキラした人たちに許されることは、自分には許されない、と。

そんな前田の所属する映画部が映画のコンクールで賞を獲った。

全校集会、みんなの前でタイトルが読み上げられる。

「陽炎〜いつまでも君を待つ〜」

その小っ恥ずかしいタイトルに嘲笑が起こる。茶化す男子生徒もいた。

前田はその嘲笑に気がつかないフリをした。

前田は体育が嫌いだった。「上」と「下」が顕著になる科目だから。

体育のサッカーでは試合をした。前田は審判をするフリをして試合を眺めていた。片方のチームには武文がいた。

試合中、武文の元へパスが回ってきた。武文は盛大にヘマをしたが、誰もそのことには触れなかった。グラウンド中すべてのため息が武文に集まった、そんな気がしていた。

昼休み、購買でパンを買うために並び武文と話していると、後方から「上」の女子達の話し声が聞こえてきた。それは、体育の時間の武文の失敗への悪口だった。

前田と武文は必死に聞こえないフリをして話し続けた。しかし、女子達の悪口は止まらない。そんな中、そのグループの1人かすみが「私映画好きだよ。」と言った。

中学の頃、かすみが前田に言った言葉とリンクする。中学の頃、前田は「上」でも「下」でもなく、ただ純粋に映画が好きだった。そして同じく映画好きのかすみとよく一緒に映画を観に行っていた。

 

数日後、武文は「青春モノの映画を撮ろう!」と提案してきた。

カメラを持って体育館に行くと、そこにいるはずのバレーボール部はおらず、かすみの所属するバドミントン部がいた。

「桐島くんが頼みにきていたからバレーボール部に体育館を譲っていたけど、桐島くん来なくなっちゃって。だから前までと同じように交代制で使ってるんだよ。」とバドミントン部の顧問の先生は教えてくれた。

前田達はバドミントン部にカメラを向けた。嘲笑する部員もいる中、かすみだけはいつも通り、練習していた。

今日撮ったものがとてもいいものになったら、かすみにそれを伝えよう。

前田は密かにそう思った。

 

宮部実果

実果は梨沙・沙奈・かすみと同じグループに属していた。いつもは桐島と付き合っている梨沙と一緒に、バレー部の部室まで彼氏である孝介を迎えに行っていた。

実果は母と二人暮らしで、母はよくカオリの好物であるカレーを作った。

実果は小さい頃、父と二人暮らしだった。その後、父は現在の母と再婚し、その母の連れ子であるカオリと姉妹になった。

なんでもよくできるカオリは、実果と同じソフトボール部で四番だった。勉強もよくできるカオリは実果の憧れだった。

しかし突然、カオリの受験の日、カオリと父は交通事故に遭い亡くなってしまう。

以来母は精神を病んでしまう。宛先のない手紙を出すようになり、実果をカオリだと思い込むようになった。

自分は実果であるのに、母にはっきりと言えない自分にやりきれなさを感じながらも、家に帰るといつも「カオリ」を演じる。

ある日クラスのいつメンと購買に並んでいる際に友人の梨沙・沙奈が映画部の悪口を言い始める。その後も教室で映画部のことを悪く言う2人に心の中で実果は悪態をつくも何も言えなかった。

その日の部活中、不意に実果は、母親に実果として認められたいと言う感情が溢れてくる。

部活を抜け出して帰路についた実果は道中ふと携帯をみると、今日が母の誕生日であることに気が付く。道中、花屋さんで花束を作りメッセージカードを記入する時、自分が母親の年齢を知らないことに気が付く。

「自分の方がお母さんと向き合えていなかったのかもしれない。」

家に帰ると今日もまたポストには宛先のない手紙が帰ってきていた。

実果は母に花束を渡し、思い切って母にその手紙について尋ねると、母はこの手紙は夫と、(母の中ではいなくなってしまったことになっている)実果に宛てた手紙だと明かした。

母はちゃんと実果も愛してくれていた。

そう気がついた実果はトイレに駆け込み涙を流した。

そして、カオリからも、部活のライバルからも四番を奪ってやろうと意気込んだ。

その日の夜ご飯はカオリが大好きだったカレーをリクエストした。

 

菊池宏樹

夏休み明けの全校集会。くだらないことを考えながら表彰式を眺めていた。

映画部の表彰。正直イタイタイトルだったけど、宏樹にとってはどうでもよかった。 

運動も勉強もできて、顔も悪くない。沙奈という可愛い彼女もいる。

宏樹は野球部に所属していたが、あまり(といよりほとんど)部活に顔を出すことはなかった。野球部のキャプテンが、試合だけでも来てくれ、と頭を下げに来た時には「この人にはプライドとかないのか?」なんて思ったりしていた。

いつものように部活を休んで彼女の沙奈と帰っていた。

俺の彼女はかわいい。確かにかわいい。

だけどたぶん、それだけだ。

沙奈は話し続ける。そしてサッカーの授業のことを話し始めた。宏樹や宏樹の友人達はかっこいい。逆に映画部の奴らはダサい。

その発言に宏樹はなんとなくモヤモヤしてしまう。

沙奈の、他人をダサいかダサくないかで判断してランク付けする価値観をかわいそうだな、と感じる宏樹は「いや自分だってそうだ。」と思った。

ある日、サッカーの授業中に、宏樹はふと同じクラスの地味なやつにパスを出した。そいつ(前田)はヘマをしてしまったが、誰もそいつには何も言わなかった。

授業終わり、宏樹はそいつに声をかけようと思った時、そいつのもとへもう1人の映画部の奴が声をかけた。その瞬間、前田の目が輝いたように見えた。

どんな扱いを受けて、嫌なことがあっても、そんなことどうでもよくなるくらい大事なものがあることを、宏樹は少し羨ましく思った。

その日、彼女の沙奈に「今日うち親いないから、放課後うちに来ていいよ。」と誘われた。いつも通り、放課後門で集合する約束をして一旦分かれた。

すると下駄箱のところで、野球部のキャプテンが声をかけてきた。「明日試合なんだ。」そうキャプテンは言った。試合だけでも来てくれ、と頼まれていたのに、とうとう宏樹は呼ばれなかった。

そのことが胸につっかえて悲しい気持ちになっていた宏樹は、映画部の2人が楽しそうにカメラを持って体育館に向かっていくのを見つけた。道中、前田がカメラの蓋を落としたのを拾い上げ、前田に渡そうとする。

しかし宏樹はなぜか、前田に話しかけるのに手に汗をかいて緊張する。やっと肩を叩いてぶっきらぼうに蓋を渡すことができた。

その時、体育の時前田に声をかけようとした自分と、野球部のキャプテンとが重なった。自分は前田を「かわいそう」だと思って声をかけようとした。野球部のキャプテンも自分を「かわいそう」と思ったんだろう、と。

自分は本気でやって何もできないことを恐れていた。

そう気づいた宏樹は次桐島に会ったら、部活をやめるなと言ってやろうと思った。

そして、沙奈と待ち合わせた門、とは反対側に向かって歩いた。

 

東原かすみ〜14歳

かすみが中学生の時の話。

かすみは中学校の違う美紀と友未という友達がいた。

かすみはヨーグルト味が好きで、バドミントンの練習の後はいつもヨーグルト味のアイスを食べていた。しかし美紀は「雑誌でアミリーがヨーグルトは太るって言っていたから、ヨーグルトは食べない」と言った。

かすみは、それなら自分も食べるのやめようかな、と思う。そこへ友未がやってきた。「ヨーグルト、好きだね。」というとかすみはその話を友未にも話した。

「だから、ヨーグルトやめようかな。」というかすみに友未は、「好きなら食べたらいいと思う。」と伝える。

 

中学校のクラスでは、男子と女子が不仲でなんとなく亀裂があった。映画が大好きなかすみは同じクラスの前田と映画の話をしたい、と思っていたが声をかけられずにいた。

その頃、かすみはなんとなく、美紀と友未が最近不仲なのに気がついていた。友未と一緒に好きな映画を借りに行った時にそのことについて尋ねたがあまりはっきりとは答えてもらえなかった。

友未の中学と練習試合の日、かすみは友未の動きがいつもより良くないことを気にかけていた。練習試合後、友未がボトルを洗っていたのでかすみが近づくと、そこには大量のボトルが並んでいた。

友未は部活で虐められていて、雑用のようなことをさせられていたのだった。

「私といたらかすみちゃんもダサいと思われるよ。」

と友未は言ったが、かすみは「私今でもヨーグルト食べるよ。友未のことも好きだから、話すよ。」と言った。

自分が好きだから。

大事な原動力に気がついたかすみは、今度同じクラスの前田にも声をかけようと決意したのだった。

 

感想

きっと誰かに共感できる

桐島、部活やめるってよ」にはいろんな登場人物のそれぞれの視点で紡がれています。

カースト「上」の人も「下」の人も、体育会系も文化系も、女子も男子も。きっと誰かに通ずるものがあるのではないでしょうか。

自分が高校生の時に抱いていたモヤモヤが詰まっているのがこの「桐島、部活やめるってよ」だと思います。読んだ後の虚無感。いやある意味充足感かもしれないこの感じはクセになります。

誰が正しいわけでもない、誰が良いわけでもない。

(ただ、個人的には梨沙とか沙奈は本物のバカというか、マジなんも考えてないやつって描かれ方な気がする。朝井リョウさんの嫌いな女像なんかな、とか思いました。自分の心が汚いだけかな。)

映画だと主人公とかがいて役によって比重が違ったりするのですが、小説だと皆が主人公です。誰の物語でもない。だからこそ、タイトルには本編に一度も登場しない"桐島"を用いたんじゃないでしょうか。

自分の高校生活を振り返ったり

もう全国の高校生は今すぐ読んで!って感じです。

「桐島、部活辞めるってよ」は高校生の"スクールカースト"を描いた作品です。大学4年生の私でも、読んだあと世界が変わりました。(なんならこれを読んでブログ開設に至りました…。)

宏樹の話ではドキッとしました。何かに夢中になって輝いている人にすごく腹が立つあの感じ、すごくわかるぞ〜って話しかけてしまう。

高校時代の私は、仲のいい友人達と遊んで騒いで、メイクとかして、好きでもないバンドのライブに行ってみたりして、とても楽しい3年間を過ごしました。

でもどこか物足りなさを感じていました。

中学の時、部活仲間と自転車で遠くまで出かけて自主練をした頃に比べると、何か足りない。

結局大学に入っても「ラクして楽しむ癖」は抜けなくて、バイトにサークル、お酒もたくさん飲んで騒いで就活して。あっという間に4年間を消費してしまいました。

そして、卒業を目前に控えた現在、「桐島、部活辞めるってよ」を読んでやっと気づきました。

私が失ってしまったのは"熱中"だったんだ、と。

ボサボサの眉毛で、メンソレータムのリップを塗ったくった唇を噛みしめて、必死にシャトルを追いかけていた頃の私は、きっと今より輝いていました。

あの頃みたいに「自分の好き」を貫けなくなったのは、いつからだろう。どうしてだろう。

その後数日は悶々としました。

最後に

とまぁ、自分語りはこの辺で…。

きっと、「桐島、部活辞めるってよ」を読むと、その人それぞれに違う感想を抱くんじゃないかな、と思います。

とにかく、熱中することを忘れてしまった大人(予備軍かな)にはなんかこう、クるものがある作品です。

青春もの、と片付けるにはもったいない。

映画はみたよ!という人はぜひ、小説も読んでみてください。

人物ごとに章が分かれていますが、時間軸は一緒なので「あぁ、この時、こんなことが起きてたのね」ってなったり。プチ複線回収が鏤められていて面白いです。え、その時そんなこと思ってたの?みたいな。

 

このあらすじ・内容を読んで少しでも「桐島、部活辞めるってよ」を読んでみようかな、と思っていただければ幸いです。