山椒大夫/森鴎外のあらすじ・ネタバレ・感想

最後は必ず「善」が勝つ!

登場人物

母:岩代(福島県西部)の信夫群にて、娘息子と女中と暮らす。弟が13歳になった時、夫を探すために4人で旅に出る。越後(新潟県西部)で人攫いに遭い、佐渡(新潟県佐渡島)へ身売りされる。

父(陸奥掾正氏):筑紫(福岡県)の安楽寺へ左遷されている。行方不明状態。

安寿:15歳のとき、母とともに旅に出る。越後で人攫いに遭い、丹後の由良(京都府北西部)へ弟とともに身売りされる。

厨子王(正道):安寿の弟。13歳。同上。

女中(姥竹):40前後の女中。よく働く。身売りの際に自ら入水する。

山岡大夫:人身売買のもとじめ。4人を攫い、船に乗せ仲介者に売り渡す。

山椒大夫:丹後由良の富豪。多くの職人を奴隷として買い取り、ただ働きさせている。

二郎:山椒大夫の息子。長男は幼い頃亡くなっており、実質の長男。山椒大夫の元で唯一話の通じる相手。

三郎:参照大夫の息子。気性が荒くて短絡的。

曇猛律師:逃亡時に厨子王を匿い、追手を追い返す。

関白師実(藤原師実):厨子王が宿泊した清水寺に客人として宿泊している。

あらすじ

母と姉弟、女中は岩代から筑紫へ旅をしていた。その道中4人は人攫いに合い、母と女中は佐渡へ、姉弟は丹後へ売られてしまう。山椒大夫の元で働いているある日、姉は弟に自分を置いてここから逃げ、父母と再会したのち自分を迎えに来い、と言う逃亡計画を伝えた。姉はお守りの守本尊を弟に託し、父の住む筑紫の方へ送り出した。

内容・ネタバレ

母と姉弟、女中は岩代(福島県西部)から筑紫(福岡県)に向かって旅をしていた。道中、越後国にて人攫いの船に乗ってしまい、母と女中は佐渡姉弟は丹後(京都北西部)に身売りされる。別れる際、母は姉弟に「守本尊(お守りのようなもの)を大切に。」と言い残した。
姉・安寿と弟・厨子王は丹後由良の山椒大夫へ身売りされ、芝刈りと潮汲みを任ぜられる。とある晩、2人は恐ろしい夢をみる。以降安寿はあまり口を聞かなくなってしまう。
安寿はある日、山椒大夫の息子・二郎に「自らも弟と共に山を登り、芝刈りをしたい」と申し出る。二郎はこれを承諾し、翌日姉弟は共に山に登る。そこで安寿は人気のないところまで行き、逃亡計画を厨子王に告げる。その計画は、先に厨子王が逃げ、筑紫の国に父を探しに行き、その後佐渡で母を探し、最後に姉を迎えに来てくれ、というものだった。厨子王は躊躇ったが「お前が逃亡した後、私は虐められるかもしれないがなんとしても耐える。」と強く言う姉に、逃げる覚悟を決めた。安寿は厨子王に守本尊を渡した。その後、安寿は沼に飛び込んで自殺してしまった。
山椒大夫はすぐに弟・厨子王が逃げたことに気がつき、三郎を筆頭に追手を放った。厨子王はある寺にたどり着いて体を休めていた。間も無く三郎一行は寺に辿り着き、中を見せるよう僧達に命じる。しかし住職・曇猛律師がこれらを言いくるめ、寺には踏み入れさせなかった。すかさず僧のうちの1人が、その子供らしきものはあっちに行った、と三郎たちに嘘の情報を与えた。こうして厨子王は追手を振り切ることに成功した。
その後、厨子王は僧として旅をし、清水寺に到着する。そこで、娘の病気を治すためお参りに来ている関白師実と出会い、厨子王の父のこと、さらには厨子王の生い立ちが明らかになる。父は平正氏(タイラノマサウジ)であり、その息子である厨子王は国司にもなることができる身分であることが判明した。
厨子王は還俗を申し出て国司の身分を手に入れる。さらに名前を正道と改めた。父・正氏はすでに死んでしまっており、会うことは叶わなかったが、丹後由良での人身売買を禁止し、奴隷を解放した。さらに姉の自殺したところに尼寺を建てるなどの統治を行った。その後厨子王改め正道は佐渡島へと向い、母を探す。なかなか手がかりが掴めないでいると、目の見えない女性が「安寿恋しや…厨子王恋しや…」と歌っているのを耳にする。厨子王と母親は再会を果たしたのであった。

感想

森鴎外の「山椒大夫」は家族の物語です。題名的には山椒大夫さんとか言う、なんかごつそうな名前の人の話かと思われがちですが、本編中で山椒大夫はたったの三回程度しか喋りません。家族の、15歳と13歳の姉弟の物語です。

ネタバレではかなり省略していますが、姉弟山椒大夫の元で働く間もつぶさに描かれています。姉の安寿が長い綺麗な髪を切らなければならないシーンなんかは、涙なしには読めません。…と言いたいところですが、実はこの森鴎外の「山椒大夫」は文体がやや古めかしくて、端的に言うと少し読みにくいです。感情移入がしづらい。

ただ、概要を把握して挑めば割と内容は掴めますし、「てふてふ 」=「ちょうちょ」みたいなそんな読み方はさせてこないので文体に関しては読みやすいほうです。樋口一葉の作品に比べたら、余裕で読めます。(樋口一葉の作品も素敵ですけどね!)

やはりこの時代の物語は、思想とか身分制度が難しいです。「守本尊を伏し拝む」って、状況が想像できないし、拝めばどうにかなるはずだ!ってなる感覚もいまいちピンときません。

そして、身分制度。今ならあり得ませんが「君のお父さん〇〇さんなの?じゃあ君もえらい!国あげる!」的な結末に置いてけぼりになります。まあ芸能界とかの2世タレ○トさん達は割と近いかもしれないけど…(小声)

あと、現代人の感覚ではあまりないな、ってなるところもしばしば。序盤で山岡大夫に騙される時も、お母さんが「この人、本当にいい人。こんな崇高なことをしている人の申し出を断るのも申し訳ない」となって着いていってしまいます。女中は山岡大夫怪しい、ってなってるのに「奥様に意見はできない」みたいな感じでなんも言わないの。

いや言えよ。絶対怪しいよそいつ。

そんな感じで、感情移入こそ難しいかもしれませんが「山椒大夫」は森鴎外の作品の中でも「舞姫」や「高瀬舟」に並ぶ名作です。このネタバレを読んで概要を理解した上でぜひ本編にトライしていただけたら幸いです。まずは最初の方、山岡大夫が出てくるところ、「いやこいつ絶対悪者やん!」ってなるんで読んでみて欲しいです。

以上、ツッコミどころ満載な山椒大夫」について、でした。