痴人の愛/谷崎潤一郎のあらすじ・ネタバレ・感想

「恋は盲目」って、たぶんこのこと。

登場人物

河合譲治:ナオミと出会った当時は28歳。真面目な性格の、一般的なサラリーマン。

奈緒美(ナオミ):カフェの給仕女。譲治と出会った当時15歳。わがままで奔放。西洋風の容姿を持つ。

浜田(浜ちゃん):ナオミの男友達。

熊谷(まアちゃん):ナオミの男友達。

 

あらすじ

真面目な普通のサラリーマン・河合譲治は、浅草のカフェ店員のナオミと出会う。ナオミの容姿に魅了された譲治は、熱烈なアプローチの末、直美を妻としてもらうことになる。

しかし結婚してからナオミの我儘は増していき、河合の給料ではナオミの我儘をかなえることができなくなってしまう。独身時代に貯めていた貯金を切り崩して生活を送る中、「ナオミらしき女性が男と出かけていた」と言う情報が河合の耳に入って、ナオミの本性が明らかになっていく。

 

内容・ネタバレ

28歳のごく普通のサラリーマン・河合譲治は、カフェで働く美しい女性に一目惚れをする。その女性はナオミと言う15歳の少女で、学校に行きたいと思いながらもカフェに給仕として働かされていた。

譲治はナオミとデートを重ね、ある日「僕と一緒に暮らそう。君のやりたいことをなんでもやらせてあげるよ。」と告げた。するとナオミはあっさり承諾し、一緒に住むようになる。

その後、ナオミに英語と音楽の先生をつけ、譲治の自宅で一緒に生活をする。

ナオミは非常に我儘で飽きっぽい性格で、服も一度着ると飽きてしまって、新しいのを仕立てて欲しいと譲治にねだるほどだった。それでも譲治はナオミの美しさにありとあらゆる我儘を許し、独身時代の貯金を切り崩しながらナオミの要望を叶えていた。

ナオミが16歳になった頃、ナオミと譲治は男女の関係となり、いよいよ結婚して籍を入れる。

夫婦となった2人はある時、ナオミの誘いで社交ダンスを習いに行くようになる。なかなか上達しない譲治だったが、ナオミはダンスパーティに出たいと駄々をこね始める。

ダンスパーティのためナオミの高い着物を新調し、ダンスパーティに参加したが、そこでのナオミの乱暴な振る舞いに譲治は幻滅してしまう。ナオミは、友人の浜田や熊谷と同じような言葉遣いで話し、他の女性を口汚く罵り、あれだけ習っている英語もいざとなると全く話せなかったのである。譲治は情けなくなり、帰りの電車ではろくに口もきかないのであった。

その後もダンスに行くたびにナオミの乱暴さにゲンナリしてしまう譲治だったが、それでも一晩もたてばまたいつものようにナオミが愛おしくなるのだった。

 

ある日ナオミがまた突然、「鎌倉で1ヶ月ほど過ごしたい」と言い始める。譲治はその頃すでに金もなかったためその願いを退けようとしたが、「知り合いの別荘があり、そこに住むことができる。譲治さんは電車で会社に通えばいい」とナオミに言いくるめられ、2人で鎌倉に旅行に出る。

そんなある日、譲治が帰宅してもナオミがまだ戻っていなかった。宿のかみさんに尋ねると「熊谷と言う友人と一緒に別荘に行ってしまった。」と言った。

譲治は嫌な予感がし、熊谷の別荘にナオミを迎えに行くとそこでは裸にマント1枚だけ羽織ったナオミと、4、5人の男が浜辺で何やら大騒ぎをしていた。

譲治はナオミを連れ帰り、着るものを全て取り上げて家から出られないようにしてしまった。翌日譲治は東京の自宅に戻り、ナオミの私物を漁って浮気の証拠を探そうとしていた。

すると東京の自宅に浜田が現れる。浜田は家の鍵を持っており、「この家で頻繁にナオミと逢瀬をしていた」と白状する。

さらに浜田は、ナオミが熊谷とも関係を持っていることも明らかにした。

譲治は浜田に感謝を伝えると、鎌倉の方へと戻り、ナオミを問い詰めた。するとナオミはあっさりと白状した上で、もう浮気はしないと約束をした。

その後東京に戻ってすぐに、譲治は熊谷とナオミの浮気現場をはっきりと目撃してしまい、ナオミを追い出す。

しかしその数日後、譲治はナオミを失った悲しさに、ナオミの行方を探し始める。

浜田に聞いたところ、ナオミは最近男を5・6人連れてダンスパーティに参加し、色々な男のところを転々としていることが明らかになった。

その後すぐに、ナオミはふらっと家に帰ってきては、「荷物を取りにきた」と言って毎晩少しずつ荷物を持って何処かへ行ってしまう。

ある日ナオミは突然「産毛を剃ってくれ」と譲治にお願いする。最中、譲治はナオミの美しい肌に我慢ができなくなり「ナオミの言うことをなんでも聞くから、戻ってきて欲しい」と言ってしまう。

ナオミはしめた、と言わんばかりに「欲しいものはなんでも買うこと」・「自分のやることに干渉しないこと」・「男と遊ぶことに文句を言わない」などと約束を言いつける。

その後2人は夫婦に戻ったが、ナオミは相変わらず金遣いが荒く、他の男とも関係を持ち続け、譲治はそれを容認するしかなかった。

譲治は、「私自身は、ナオミに惚れているのですから、どう思われても仕方がありません。」と最後に綴っている。

 

感想

谷崎の文体

まず初めに断っておくと、私は谷崎潤一郎が近代作家の中で最も好きですが、谷崎の小説はかなり読みづらいと思っています。とにかく読むのにすごく時間がかかります。

情景描写が多く、人物描写や心情描写はその中に織り込まれているので迂闊に読み飛ばすこともできません。会話文も少ないので、見開き1ページぎっしり文字が詰まっていることもしばしば…。

谷崎潤一郎はとにかくすごい細かい性格の人だったのかな、なんて思います。

まあ、ものすごく端的に言うと谷崎の表現方法は私からすれば、(ちょっと)うざったいわけです。

このように谷崎の小説は読みづらいです。それでも私は谷崎潤一郎が大好きです。

谷崎の描く恋愛

なぜ私がここまで谷崎を愛してやまないのか。それは、谷崎の描く恋愛が絶妙に気持ち悪くて、ゾッとする、その感覚がクセになるからなんです。

谷崎潤一郎マゾヒズム小説集谷崎潤一郎フェティシズム小説集なんてのもあります。こちらは特殊性癖オンパレードです。今後レビューしていきます!

そんな、やばい小説もたくさんある中で「痴人の愛」は割とライトな方です。おじさんがタイプな女の子に貢ぎまくって、浮気されても結局愛してしまう、ありがち(?)なお話しです。

痴人の愛」について

本当に、同じ女として、ナオミの我儘っぷりはかなり腹立たしいです。譲治さんを馬にして遊んだり、高い服をぐちゃぐちゃにほっぽり出して足蹴にしてしまったり。我儘放題です。

そして、それでもナオミを愛してしまう譲治さんもまたちょっとむかつきます。

譲治さんがとうとう、実家にお金を送って欲しい、と頼んだりし始めた時には「うわぁ本物の馬鹿じゃん…」と呆れてしまいました。

しかし出会った当初、ナオミは15歳だったと言うことは、この我儘放題の性格はもしかすると譲治さんのせいなのかも、とか思わずにはいられませんでした。自業自得と言いますか、何やら残念な育て方をしてしまっていたのではないかと思います。

ただ、そんな腹立たしい魔性の女・ナオミもかなり小賢しい訳です。英語の覚えはすこぶる悪いのに、悪知恵と言うか、男を手玉にとるのはうまい。

ほんと、めちゃくちゃ嫌いなタイプな女です。

そんな女に騙されて、それでも尚愛し続ける愛の深さ…。譲治さんの揺れ動く心に、ちょっと同情と言うか、「まぁ、わかんなくはない、かもな」なんて思ってしまう場面も。

結局顔かよ!って感じもありますが…。

おわりに

これを読んで思ったことは、「恋は盲目だな。」ってことでしょうか。

私が譲二さんの知り合いだったら、「目ぇ覚ませばかー!」で一発ビンタですね。ナオミに関してはどうしようもない。関わりたくもないタイプの女ですよ。

超絶ビ○チと、そんな女に恋してしまった普通のおじさんの恋愛模様、覗いてみたいと思ってみた方はぜひ、読んでみてください。

以上、おじさん×美少女のラブロマンス(?)「痴人の愛」の紹介でした。