坊ちゃん/夏目漱石のあらすじ・ネタバレ・感想

まっすぐな正義が、悪を懲らしめる。

登場人物

坊っちゃん(おれ):物語の主人公。短気で無鉄砲な性格。

清:坊っちゃんの家で働くお婆さん。坊っちゃんを唯一可愛がってくれる人。

堀田:赴任先の同僚。本作中では「山嵐」と称される。

教頭:上品な立ち居振る舞いの男性。本作中では「赤シャツ」と称される。

吉川:校長や教頭に媚びへつらう一教師。本作中では「野だいこ/野だ」と称される。

 

あらすじ

短気で癇癪持ちで曲がったことが大嫌いな「坊っちゃん」は、父の死後、兄に分けてもらったいくらかのお金を使って学校へ通った。「坊っちゃん」は卒業後、先生の薦めで四国の中学校に教員として赴任した。

赴任先の中学校で巻き起こる、意地の悪い先生達への痛快な反逆劇を描いた物語。

 

ネタバレ

短気で癇癪持ちである主人公「坊っちゃん」は、小さい頃から何かと問題を起こしては周囲に邪険に扱われていた。しかし、この坊っちゃんのことを唯一可愛がってくれる人がいた。それが、下女の清であった。

清は、坊っちゃんのまっすぐで裏表のない性格を褒め、贔屓してくれた。

 

両親が死んだ後、兄が遺産の一部を坊っちゃんに寄越した。それ以来兄とはあっていない。

清は叔父のもとでお世話になるといい、離れて暮らすことになった。

坊っちゃんは兄が分けてくれた少しの金で学校へ通った。満足のいくように学を得ないうちに3年が経過して、すぐ卒業となった。

特に考えもなかった坊っちゃんは、先生の手引きで四国の松山中学に教師として赴任することになった。

 

赴任先の四国で、坊っちゃんは窮屈な思いをして過ごすことになる。宿泊先のホテルは蒸し暑く、騒がしくて寝られやしない。

学校では、狸のような校長に、女のような喋り方をする教頭、山嵐のようにけたたましい数学教師の堀田など、個性的な教師達と関わらなければならなかった。生徒達はしょっちゅう坊っちゃんをからかい、(田舎特有の情報網で)昨晩食べたものや行動などを冷やかされた。

そんなある日、宿直当番になった坊っちゃんが生徒達のいたずらに遭った。激昂した坊っちゃんが翌朝、生徒達を並べて説教していたところに狸ーもとい校長がやってきて、事情を聞いた末に生徒達を解放してしまった。この手ぬるい指導に納得のいかない坊っちゃんは強気に校長に噛み付いたが、冷やかされて終わってしまう。

ある日、赤シャツー教頭に釣りに誘われた。負けん気の強い坊っちゃんはこの誘いに乗って、赤シャツと、(赤シャツの金魚のフン)野だいこと3人で沖釣りに出た。

赤シャツと野だが終始気に入らない坊っちゃんだったが、釣りの帰りに赤シャツに「堀田に気をつけて」と忠告をうける。

堀田とは坊ちゃんが山嵐とあだ名をつけた同僚であり、同じ数学教師ということで坊っちゃんの世話を焼いてくれた人であった。

翌日、山嵐が今の下宿先を出るように言ってきた。「横柄な態度に困っている」と相談を受けたそうだが、心当たりのない坊っちゃん山嵐と言い合いになってしまった。

しかし、その後の宿直の事件についての会議では坊っちゃんを庇うなど、敵とも味方とも分からぬまま、山嵐とは口を聞かない日が続いた。

 

ある日、坊っちゃんは赤シャツから呼び出された。なんでも、うらなり君(古賀先生)が宮崎の学校へ転勤するから、坊っちゃんの給金を上げる、という。

納得して帰宅した後、下宿先のおばさんにこの話をすると、うらなり君は転勤を望んでなどおらず、半ば無理やり飛ばされるらしいことが明らかになった。

翌日、学校に行くと山嵐が以前の下宿先について、とんだ言いがかりであったと謝罪してきた。そして2人の仲は以前よりも深まった。

 

山嵐は、うらなり君の異動は赤シャツの差し金であると睨んでいた。うらなり君のフィアンセを横取りした赤シャツは、さらにうらなり君を遠い地へ追い出すことで、とうとうこのフィアンセを自分のものにしようとたくらんでいるのだ。

そしてある日、決定的な事件が起こった。赤シャツの弟の誘いで街に出た坊っちゃん山嵐は、師範学校と中学校の抗争に出くわした。

教師である2人はこれを止めようと割って入って、かえってぼこぼこにされてしまった。

翌日の朝刊で、2人について書かれた記事が出た。内容は2人を非難するようなもので、山嵐坊っちゃんは撤回を申し入れたが、校長や赤シャツ(教頭)はまともに取り合わなかった。

この事件に伴って山嵐が解雇された。自分のいう通りにならない山嵐を、赤シャツが追い出そうとしたのである。

 

確信を持った山嵐坊っちゃんは、赤シャツの悪事を暴いてとっちめてやることにした。宿屋兼料理屋に張り込んで、現場を抑えようという計画であった。

張り込みを初めて8日目の夜、漸く赤シャツと野だが現れた。2人が宿屋兼料理屋(簡単に言うとラブホテルのようなもの)から出てきたところへ躍り出て、殴りつけたり、卵を投げ付けたりした。

その後赤シャツや野だは2人を訴えたり出頭はしなかった。

 

坊っちゃんはこの後、東京へ戻って鉄道会社で働いた。そして、小さいが自分の家を持ち、清と暮らした。

 

感想

優しいお婆さん、清の存在

この「坊っちゃん」という物語は、坊っちゃんの視点で描かれています。

短気で怒りっぽい、無鉄砲…と、この主人公坊っちゃんもなかなかにアクの強い人物。坊っちゃんの短絡的な様を、夏目漱石は見事に描き出しています。

典型的な、小学校の時とかにいた、乱暴ですぐに手が出る問題児タイプの人ですね。

そんな坊っちゃんを、下女の清は可愛がり続けます。

 

幼少期はそんな清を不思議に思う坊ちゃんでしたが、独り立ちしてから上手くいかないことがあると、清のことを思い浮かべています。

両親や兄にまで邪険に扱われた坊っちゃんにとって、清は大変特別な存在であったことでしょう。

物語に直接関わるわけではありませんが、清の存在が「坊っちゃん」という物語にあたたかみを与えています。

 

黒幕は誰?

この物語の面白いところは、周りの狡猾な人間達に翻弄される坊っちゃんの心理描写です。

読者からしてみれば、怪しいのは明らかに赤シャツと野だいこ。なのに、赤シャツのミスリードによって坊っちゃんは気の良い同僚である山嵐を疑い始めてしまいます。

坊っちゃんの無鉄砲さが、この揺れ動く心理描写でありありと描かれています。

坊っちゃんの真っ直ぐすぎるゆえに人を信じすぎてしまうところに、少しほっこりしつつ、もどかしさもおぼえます。

 

また、田舎出身の人にも是非読んで欲しいです。

田舎特有の情報網、ケチ臭さ、芋っぽさ…

私自身瀬戸内の田舎で生まれ育ったので、なんだかどきっとするところも。

 

この物語では、最後に赤シャツと野だいこをこらしめて終わる訳ですが、この物語の本当の黒幕は田舎の持つ雰囲気そのものなのかも、とおもったりしてしまいました。

よそ者を嫌い、変化を嫌う雰囲気が、坊っちゃんを受け入れなかったのではないかな…と。

おわりに

「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。」という一節で始まる物語。

 

坊っちゃん」って結局どんな物語なの?と聞かれるととても難しいように思います。

一応、勧善懲悪の物語、ということになっていますが「え、そんなもんでいいの?もっと社会的に抹殺しないの?」なんて思ってしまうラスト、、、。

私個人としては、清という人物こそ、この物語で描きたかったものなのではないか、と思います。

夏目漱石の未完の作品、「明暗」に出てくる「清子」と言う女性ともなにか関係があるのかも…そんな考察をしながら文学作品に触れるのもいいかもしれません。