舞姫/森鴎外のあらすじ・ネタバレ・感想

本当に弱い人間は誰?

登場人物

田豊太郎:母子家庭で育つ。成績優秀で娯楽を好まない、とても理性的な人間。ドイツに留学する。

エリス:踊り子として働き、母親と2人暮らしている。

相沢:豊太郎の友人。豊太郎のことを気にかけて何かと世話を焼いてくれる。

あらすじ

母子家庭で育った豊太郎は娯楽を好まず理性的な人間であった。そんな彼はドイツ留学中にエリスという少女と恋に落ちる。付き合いの悪い豊太郎をよく思わない者たちの告げ口により、豊太郎は一時職を失う。なんとか新聞の翻訳という仕事でお金を稼ぎ、エリスとその母と3人で暮らしていた。そんなある日、エリスの妊娠と、日本への帰国の機会とが同時にやってくる。豊太郎は決断をしかねているうちに、高熱を出して寝込んでしまうが…。

内容・ネタバレ

母子家庭で育った豊太郎は成績優秀で娯楽を好まず、理性的な人間であった。そんな彼はドイツに留学し、一人の少女・エリスに出会う。貧困ゆえに父親の葬儀が執り行なえないことに悲しみ泣いているその美しい少女に心奪われた豊太郎は、彼女に幾らかのお金を与える。

以降親しくなる二人だが、その関係を怪しんだ豊太郎の知人たちは、普段から付き合いの悪い豊太郎のことをよく思っていないこともあり、豊太郎と彼女との関係を教官に告げ口した。もとより教官の言うことを聞かず、友人たちからの信頼がなかったということもあり、豊太郎は職を失ってしまう。

以降は新聞の翻訳という仕事で何とか金銭を得ていた。そこでエリスが懐妊したことが判明する。不安な中に幸せを感じていた二人であったが、ある日、友人の相沢から通訳の仕事の話が舞い込んでくる。

豊太郎はその話を受け、そこで実力を発揮し、長官の御眼鏡に適うこととなる。この一件での活躍と相沢の手引きもあり、豊太郎は正式に雇われる事になる。しかしそのためには、エリスをおいて日本に帰国する必要がある。愛する人か、安定した生活か、決断を迫られたは豊太郎はおもわず帰国を約束してしまう。

帰り道、豊太郎は罪悪感から冬の夜道に佇んでいた。

後日、高熱を出した豊太郎が寝込んでいるうちに相沢が訪れ、豊太郎が日本へ帰国する決断をしたことをエリスに話してしまった。その悲しみで発狂したエリスは精神病を患ってしまい、奇妙な行動をとるようになってしまう。

豊太郎が熱に浮かされているうちに帰国の話は進み、いよいよ自分の口からは何も告げることなく、豊太郎とエリスは離れ離れになってしまった。

感想

この物語は、登場人物の弱い部分が複雑に絡み合い、悲しい結末につながっています。

豊太郎の弱さ

友人との誘いを拒み続けた結果、皆からの不信を買い、結果として職を失ってしまった豊太郎。彼は実に、責任感がなく決断力のない人物です。作中で彼は周りの人間のせいで…と述べています。認められる努力をせず、失敗を他人のせいに、成功は自分の努力のおかげで、と述べている彼に、私は一種の同族嫌悪のようなものを感じます。

相沢の提言に生返事でyesと答えてしまう弱さ、yesと言っておきながら、相沢に責任転嫁するような描写は見ていて恥ずかしくなります。「いやお前がうんって言ったんだろ!金に目が眩んだんだよな?な??」と、責め立てたい。

エリスへの罪悪感で家に帰れず外でたそがれるシーンは、小学生の時に仮病を使って帰宅し、玄関前で「お母さんになんて言おう…」と考えて結局下校時間まで公園で時間を潰した時と重なります。何がしたいねん。

エリスの弱さ

エリスは本作中では最も弱々しく、華奢で庇護欲をかきたてるような様子で描写されています。しかしまあこれは豊太郎目線のエリスであることには留意しなくてはならないと、私は思っています。

娯楽に興じない真面目一辺倒の豊太郎。交際経験のないまま成人し、社会人として働いていた彼が述べる女性像。信頼性はかなり低いですよね…。ほんまにそんなかわい〜女なのか?

そもそも私的には、道端で泣いている少女、という点からすでに怪しさ抜群だと思います。そして上目遣い、ボディータッチ、豊太郎の自尊心をくすぐるエリスの無知さ。あざといな。これがまあ素でやっているなら天性のモテ女ですけども。

あと、「彼女が彼女の母親を説き伏せる」というシーンが作中に二回も現れるんです。結構言いたいこと言う系なのでは…?

また、豊太郎の出張中になんとも重い手紙を寄越します。私はこのときこう思いました。「この女、男の扱い慣れてるな…。」

どうしても私は、彼女のしたたかさを感じとってしまいます。

もっとも弱い者として描かれているように見せて、実は本作中では一番強い人間なのではないだろうかと思います。尤も、豊太郎が帰国することを聞いてから発狂してしまうあたりは精神的な弱さを感じますが…。私の中でエリスは、ぶりっ子メンヘラです。

相沢の弱さ

相沢は作中では豊太郎の唯一の味方です。コミュ強で思ったことは結構ズバズバ言う、強い人にも見えます。

しかし、この彼もまた「自分の考えが最善であると奢り、人の感情を汲み取れない弱さ」を持っていると感じます。豊太郎の幸せを分かったようにことを運んでしまう強さは、自分を過信してしまっているという弱さと表裏一体ではないか、と。

おわりに

全体を通して、森鴎外の作品は古文体に近く読みにくさがあります。つらつらと細かい描写も、わかりにくいですし…。

舞姫」もまた同様でありますが、わずか30ページの中でこんなにも人間の弱さについて赤裸々に描かれた作品は他に例を見ません。やはり森鴎外は偉大です!

ここでは私なりの感想や思いを綴っていますが、きっと読み手によって全く違う感じに読める作品かな、と思います。高校の国語の教科書に載っていたり、結構読んだことがある人は多い「舞姫」ですが、また違った観点から読み直してみてはいかがでしょうか?

以上、読み方色々!森鴎外の「舞姫」についてでした。